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東京地方裁判所 平成2年(ワ)9240号 判決

原告 桜川グレースマンション管理組合

右代表者理事長 犬飼隆敏

右訴訟代理人弁護士 淵上貫之

同 鈴木国夫

被告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 田中巌

主文

一  被告は、原告が日本洗管株式会社に依頼して、別紙物件目録(2)ないし(4)の各部屋の雑排水管取替工事をするについて協力する義務があることを確認する。

二  被告は、右株式会社が前項の各部屋に入室して雑排水管取替工事をするのを妨害してはならない。

三  被告は、右株式会社による第一項の雑排水管取替工事が完了したときは、原告が管理費から第一項の各部屋当たり金二〇万円の工事費を支払うことに同意し、かつ、被告が原告に対し右二〇万円を超える工事費(自己負担金)を支払う義務を有することを確認する。

四  被告は原告に対し金四五万円を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文第一ないし第三と同旨並びに被告は原告に対し金六二万円を支払え。

第二事案の概要

本件は、昭和六三年五月一日及び一五日開催の原告の臨時総会において別紙物件目録(1)の建物(本件マンション)内の各部屋に敷設されている雑排水管(本件雑排水管)取替工事(本件工事)を日本洗管株式会社(日本洗管)に依頼して行い、かつ、本件工事代金については、一戸当たり二〇万円を原告の管理費から支出し、二〇万円を超える部分は各区分所有者が原告に支払う旨決議(本件決議)されたとして、原告が、被告所有の別紙物件目録(2)ないし(4)の各部屋(被告の本件各部屋)の雑排水管(被告の各雑排水管)の所有者である被告に対し、主文第一ないし第三と同旨の請求を求め、併せて、区分所有者として組合の決議に基づく債務の不履行による損害として、本件訴訟及びそれに先立つ民事調停等に要した弁護士費用及び雑費六二万円の経費の支払を求める事件である。

なお、本件訴えは、本件雑排水管が共用部分に属し、その取替工事が建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)一八条一項の原告の総会の決議事項に属することを前提にしているが、仮に、本件雑排水管が専有部分に属し、共用部分に属しないとしても、本件雑排水管の性質上、被告がその取替工事が原告の総会の決議事項に服しないとするのは、権利の濫用に該当するとして、予備的に権利の濫用の主張がされている。

一  争いのない事実

原告は、昭和四九年に建築された本件マンションに居住する住民四八世帯により構成される管理組合、被告は、本件マンションに被告の本件各部屋を所有する者である。

二  争点

1  本件雑排水管につき本件工事をする必要があるか否か。

2  本件雑排水管が共用部分に属するか否か。

3  本件決議の適否。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件雑排水管につき本件工事をする必要があるか否か)について

1  証拠から次の事実が認められる。

ア (本件雑排水管について)

本件雑排水管は、鉄管と塩化ビニール管から構成され、鉄管部分が主体となっているもので、区分所有者の建物の台所、洗面所、風呂、洗濯機、便所から出る排水を本管に流す枝管であり、各区分所有者の建物の床下に配管されているものである。

イ (本件雑排水管の老朽化の状況)

本件マンションにおいて、本件雑排水管からの漏水事故が、本件工事をした昭和六三年六月以前に四、五回発生し、本件雑排水管の半数以上が水の流れが悪くなっていた。そこで、原告は、当初、浴室と浴槽に接続する排水管の先端のトラップ部分を取り替えることを目的として取り組み、その希望者を募ったところ、四八戸中一六戸の工事希望者があった(当事者間に争いがない)が、従前から本件雑排水管の清掃を行っていた日本洗管が調査を進めた結果、本件雑排水管の鉄管部分が腐食している部分が多く、これが水漏れの根本的な原因であり、そのまま放置すれば、水漏れが頻発する虞があるという結論に達した。

なお、マンションの雑排水管の平均耐用年数は一五年位で、その年数を経ると、排水管は老朽化し、水漏れを引き起こしやすくなるという専門家の見方もあるところ、本件雑排水管は敷設後一七年を経過している(当事者間に争いがない)上、本件雑排水管の取替工事は、被告の協力が得られないため被告の各雑排水管を除いて、昭和六三年六月上旬に取替工事を完了したが、現に、除去された雑排水管は鉄が錆びて、見た目にも腐食していることがうかがわれる状態で、本件雑排水管が既に腐食し、取替えの必要があるとする原告の見解は、少なくとも不当なものとはいえない。

ウ (被告の各雑排水管を除く部分の本件雑排水管取替工事後の状況)

本件雑排水管の取替工事は、右工事後は、ジェット洗浄を実施することができ、奥の鉄管部分までは清掃できるようになり、その結果、水の流れがよくなり、水漏れ等の事故も起きていない。もっとも、被告は、自分なりに被告の各雑排水管を年一、二回専門業者に清掃をしてもらい、水漏れ等の事故がないように注意をし、現在までこれといった水漏れを起こしていないが、被告の各雑排水管が古いままであるので、ジェット洗浄を実施できず、手間がかかり、奥の鉄管部分までは清掃できないスネークワイヤーによる洗浄しかできず、より根本的には、被告の各雑排水管が古いままの状態であるので、被告の各部屋の階下の区分所有者は、水漏れの不安を払拭できないでいる。

2  前記の争いのない事実及び右認定事実から、本件雑排水管は、老朽化し、本件工事をする必要があると認められる。

二  争点2(本件雑排水管が共用部分に属するか否か)について

前記一の1のアで検討した本件雑排水管は、専有部分である各部屋の中に存在するという見方もできるが、部屋の目に見える場所に取り付けられ、かつ、区分所有者の好みで器具の選択等の余地のある給水管とは異なり、共用部分と見られる床下と階下の天井との間に敷設されており、特に区分所有者の好みで維持管理を行う対象となる性質のものではなく、雑排水を機械的にスムーズに流すことにのみ意味があるに過ぎず、少なくとも維持管理の面からは、むしろ、「本件マンション全体への附属物」というべきであり、法二条四項から除外される専有部分に属する建物の附属物とはいえず、法二条四項の専有部分に属しない附属物に該当すると解するのが合理的である。

なお、本件マンション分譲時のパンフレットにおいても排水管は共用部分である旨の説明が加えられ、昭和五四年七月一日施行の原告規約三条二号で「建物に直接する共用の附属物」として「給排水衛生設備」、「その他各種の配線配管」が掲げられ、昭和六三年五月一日施行の原告規約七条二項一号で、「天井、床及び壁、躯体部分を除く部分を専有部分とする」とされ、同規約八条の別表第2で、「給排水衛生設備」及び本件排水管が組み込まれている床下の「床スラブ」が共用部分とされていること並びに本件雑排水管の清掃は従来から原告の管理の下に日本洗管により行い、その清掃費用も原告の組合費から支出してきたことも、右に検討した趣旨から理解できる。

したがって、本件雑排水管取替工事については、法一八条一項の「共用部分の管理」として集会の決議で行うことができるというべきである(したがって、権利の濫用の予備的主張につき判断するまでもない。)。

三  争点3(本件決議の適否)について

1  証拠から次の事実が認められる。

ア 原告は、前記一の1のイのとおり、水漏れは、雑排水管の鉄管部分が建築後一四年を経て、腐食が進んでいることに原因があるとの認識の下に、本件マンション全体の問題であるとして、昭和六三年四月二三日付け広報で本件工事について議題とする旨区分所有者に知らせた上、五月一日臨時総会を開き、同総会で、全戸の本件雑排水管工事を実施すること及びその工事業者を前記のとおり従来から清掃を依頼している日本洗管とすることに加えて、本件工事の費用負担についても決議し、原告の組合員全員の理解を得るため、広報のビラを配付し、併せて、総会の不参加者のために説明会を開いた。ちなみに、被告は、右総会については、白紙委任状を提出している。

イ しかし、右五月一日の臨時総会で行った本件工事の費用負担についての決議は、事前に議題とすることを知らせていなかったので、原告は、改めて昭和六三年五月一一日付け広報で本件工事の費用負担について議題とする旨区分所有者に知らせた上、同月一五日の組合臨時総会において、本件決議、すなわち、本件雑排水管の工事代金については、一戸当たり二〇万円を原告の管理費から支出し、二〇万円を超える工事代金は各区分所有者が原告に支払い、洗面所の床及び階下の天井内装工事については各区分所有者の個人負担とする旨の決議をした。また、被告は、右総会については、欠席している。

2  右認定事実から原告の総会において本件決議が行われ、右決議は適法であると認められる。

四  (結論)

したがって、被告は、本件決議に従う義務があり、原告は、本件決議を実行する権利、義務を有するところ、被告が右決議に従わず、被告の各雑排水管の取替工事に協力しないこと前記一の1のイのとおりであるので、主文第一ないし第三と同旨の請求は理由がある。また、弁護士費用等の六二万円の経費の支払を求める請求については、前記認定に照らし、原告主張の本件訴訟及びこれに先立つ民事調停を起こす必要性も肯定できるところ、そのために必要な弁護士費用等の出捐につき具体的な立証がないので、その費用を控え目に見積り、四五万円をその費用として原告の損害と評価するのが相当であるので、四五万円の限度で認容し、四五万円を超える部分については、理由がないので棄却する。仮執行の申立てについては、相当でないので、これを却下する。

(裁判官 宮崎公男)

〈以下省略〉

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